11/19(土)、赤坂ACTシアターにて、中島みゆきの夜会『2/2』初日を観てきた。
帰ってきてから諸事多忙のため、この記事を書くまで1週間以上も経ってしまったが、初日ならではの緊張と興奮は、まだ体の底に燠火のように残っている。
具体的で詳細なレビューは、2回目以降の鑑賞の後にしたいが、まずは第一印象を――それが薄れないうちに――簡単にまとめておきたい。
再々演とはいえ、事前に (中島みゆき本人のインタビューなどで) 予告されていた通り、構成・曲目・演出などは初演 (VOL.7) ・再演 (VOL.9) とはがらっと変わり、半分以上新作といっていい内容。
テンポ良く、心地よい緊張感に満ちた見事な舞台だった。
とくに第1幕は、ここ数作の夜会では、もっぱら第2幕でのクライマックスを準備するための周到な伏線張りに終始するという印象が強かったのだが、今作では、第2幕への伏線の役割を果たしつつも、単独でも十二分に楽しめる舞台になっている。
ヒロイン莉花 (中島みゆき) の職場 (出版社) の風景からスタートし、恋人・圭 (コビヤマ洋一、役柄は日本画家に変更されている) との出会い、そして二人の幸福を破壊しようとする「もう1人の莉花」の出現という、初演版でおなじみのストーリーが、初演・再演とは異なり、ほぼ時系列順に進む。
その点で、より「わかりやすい」ストレートな構成になっているのは間違いない。台詞をほとんど用いず、歌だけで進行するスピード感あふれる展開も効果的だ。
第1幕がこのように初演・再演とは大きく変わっているのに対して、第2幕の後半、肝心の大詰めの部分はあまり変わっていないな、と思いながら観ていたら、ラストの第3幕 (この第3幕には、「鏡の中の夏」という意味深なタイトルがついている) で意表を突かれた。
杉本和世の美しい高音のスキャットによる「彼と私と、もう1人」 (アルバム『荒野より』では、この曲のエンディングに収録されている部分) に乗せて、鏡の中の世界で、莉花 (植野葉子) と茉莉 (中島みゆき) が、母 (香坂千晶) に抱擁される。
杉本のスキャットによるエンディングは、VOL.5『花の色は…』の「夜曲」以来で、その意味でも懐かしい。
莉花を除く二人は、すでにこの世にはいない存在だ。さまざまな解釈が可能な場面ではあるが、いずれにせよ、「もう一人の自分」に苦しめられてきた莉花にとっても、この世にいない二人にとっても、これが最終的な「救済」を意味する場面であることは間違いない。
美しく暖かな余韻の残るエンディングだった。
中島みゆきが事前にインタビューで語っていた、初演や再演で「やり残していたこと」というのは、主としてこの第3幕のことを意図しているのだろうが、もう1箇所、第2幕のラストで、「もう1人の莉花」が悪役のままで終わるのではなく、姉・茉莉に抱きしめられて救済され、静かに消えてゆく場面 (これも感動的なシーンだ) もそこに含まれているような気がする。
この場面、そして第3幕を思い返してみると、今回の「完結編」たる『2/2』には、やはり最近の夜会――とくに「転生」3部作ともいうべき、『ウィンター・ガーデン』『24時着0時発』『今晩屋』――のモチーフが、色濃く反映しているという印象が強い。
それは、前の記事で書いた言葉をあえて繰り返せば、やはり「異界と出会う」ことを通じての救済の物語、ということだったのではないだろうか。
なお、初日の客席には、「中島みゆき研究所」の管理人さんはじめ、みゆき関係のサイトやブログでおなじみの方々が勢揃いされていたようだ。それと――これは後から友人から聞いた話だが――中島みゆきの母上も客席におられたとのこと。
終演後は、歌暦ネット関係の20数年来の仲間たちと、久々の徹夜宴会。 さすがに若い頃とは違い、徹夜は少々体にこたえたが、あっという間に時間が過ぎてしまった、楽しいひと時だった。
曲目
第1幕
第1場 出版社編集部
- 旅は始まる
- 新しい風
- 笹舟
第2場 圭のアトリエ - 遠近法
- ささやかな花
- Last Scene
- 奇妙な音楽
- 鏡の中の他人
- Never Cry Over Spilt Milk
- ギヴ・アンド・テイク
- 奇妙な音楽
- 彼と私と、もう1人
- 誰かが私を憎んでいる
- 夢中遊行
- ばりほれとんぜ
- 暗闇のジャスミン
- 誰かが私を憎んでいる
- 暗闇のジャスミン
第3場 ベトナム・安ホテル - 1人で生まれて来たのだから
- 市場は眠らない
- 途方に暮れて
- この思いに偽りはなく
第4場 ベトナム・市場 - 帰郷群第2幕
第1場 ベトナム・竹工場 - 帰郷群
- 竹を渡る風の中で
- 姉妹になるがいい
- 鶺鴒
第2場 福井県・厳冬 - 緘口令
- 旅人よ我に帰れ
第3場 新潟市・病室 - 茉莉花
第4場 ベトナム・水上市場 - 竹の歌
- 紅い河
第5場 ベトナム・安ホテル - 7月のジャスミン
- 海のカルテ
- 自白
- 目撃者の証言
- 7月のジャスミン
- 目撃者の証言
- 暗闇のジャスミン
- 幸せになりなさい
- 二雙の舟
- 幸せになりなさい(旅人よ我に帰れ)第3幕
第1場 鏡の中の夏 - 彼と私と、もう1人
キャスト
- 中島みゆき 上田莉花 上田茉莉
- 植野葉子 上田莉花 ホア母さん 上田綾子(母) 元・産科婦長
- 香坂千晶 上田莉花 ホテルフロント係 トァン 上田綾子(母) 看護師
- コビヤマ洋一 矢沢圭
阿知波悟美 大伯母の声- 井上裕朗 編集・杉沢の声
ミュージシャン
- 小林信吾 (Conductor, Keyboards)
- 友成好宏 (Keyboards)
-
中村哲 (Keyboards, Saxophone)
-
古川望 (Guitars)
-
富倉安生 (Bass)
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島村英二 (Drums)
-
杉本和世 (Vocal)
-
宮下文一 (Vocal)
-
牛山玲名 (Violin)
-
民谷香子 (Violin)
-
友納真緒 (Cello)