京都・鹿ヶ谷にある法然院の春季伽藍内特別公開に行ってきた。
私はふだんまったく不信心な人間なのだが、「今晩屋」公演パンフレットに写真が掲載されている茅葺きの山門がこの法然院の門であることを mixi の知人Sさんから教えられ、私の職場からほど近くと地の利がいいこともあって、これも一つの縁と思い、この春の特別公開を機に参拝することにしたという次第である。
ちなみに、Sさんはパソコン通信時代以来の長いお付き合いのある仏教学の専門家であり、「今晩屋」の演出進行表の作成にあたっても、とくに仏教関係の知識については、多くの貴重なご示唆をいただいた。この場をお借りして厚く御礼を申し上げたい。
さて、法然院はその名称から想像されるとおり、鎌倉初期に専修念仏の元祖・法然上人が弟子とともに修業に耽った鹿ヶ谷の草庵に由来している。この草庵は久しく荒廃していたが、江戸初期の1680年、知恩院第38世萬無和尚が元祖法然上人のゆかりの地に念仏道場を建立することを発願し、現在の伽藍の基礎が築かれたということである (案内パンフレットによる)。
伽藍内部は通常は非公開であるが、毎年、4月1日から7日までと、11月1日から7日までの年2回、一般公開を行っている。
私が訪れた4月2日は、風は肌寒かったが、まずまずの好天に恵まれた。
京都市バスを白川通の「浄土寺」で降り、東に入ってしばらく歩くと「哲学の道」に出る。桜はまだ6,7分咲きだったが、好天ということもあり、外国人を含む多くの観光客が散策していた。
哲学の道を少し南へ下ると法然院への案内板があり、疎水を東へ渡って坂を少し上ると、すぐに参道に出る。短い参道を上ると、茅葺きの山門 (ページトップの写真) が見えてくる。
山門を入ると、両側に白い台形の盛り砂がある。これらは白砂壇(びゃくさだん)と呼ばれ、水を表しており、その間を通ることは「心身を清めて浄域に入ることを意味している」とのことである。「身を包むものは禊の河水」 (「安らけき寿を捨て」)という一節を思い出さないでもない。
入口で拝観料500円を納め、本堂に上がる。
堂内は当然のことながら撮影禁止なので写真はないが、本尊の阿弥陀如来座像の他、観音・勢至両菩薩像、法然上人立像、萬無和尚座像を拝観することができた。横に担当の女性が立ち、それぞれの仏像の由来を解説してくれる。
堂内には、狩野光信 (永徳の長男) の障壁画 (重文) をはじめとする貴重な絵画も多くあり、それらについても、担当の方の解説を聴きながら、ゆっくり観覧することができた。
圧巻だったのは、本堂中庭の椿である。この春季特別公開は、ちょうど椿の開花時季にも合わせてあるのだろうが、それにしても見事だった。
夜会VOL.15のタイトル「夜物語~元祖・今晩屋」の「元祖」という言葉に、仏教の一宗の開祖、とくに法然上人をさす意味がある……などという知識は、ここでは蛇足だろう。
1時間ほどで拝観を終え、再び白砂壇の間を通り、山門をくぐって外界に出た。バスに乗りわずか3駅で、職場という日常の空間に私は戻って行った。束の間ではあるが、浄域に身を置いた記憶とともに。
【上記記事に載せられなかった写真も、フォトギャラリーに掲載しています】