「縁会2012~3」追加公演

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新生フェスティバルホール

2013年5月23日、新生・大阪フェスティバルホールでの「縁会」追加公演。チケット確保は予想以上に困難を極めたが、直前になってようやく、幸運にも手にすることができた――涙をのんだ多くの友人、知人たちに対して、少々うしろめたい気持ちさえ抱きながら。

当日は初夏を思わせる快晴のもと、これまで何度も歩き慣れた中之島の土佐堀川沿いの道を、これまでとはまた異なる新たな期待を胸に、新しいホールへと足を運んだ。

かつてのフェスティバルホール側面を飾ったレリーフ「牧神、音楽を楽しむの図」が再現されているのも、うれしく懐かしい。

関西出身・在住の私にとって、フェスティバルホールは、若い頃から (クラシックなどの公演も含めて) なじんできた、ホームグラウンドとでもいうべきホールだ。1984年秋の「月光の宴」から2007年のツアーまで、2回の「歌暦」と夜会を除くほとんどの中島みゆきのコンサートを、私はこのホールで聴いた。

1990年代以降、パソコン通信への参加をきっかけに、多くのファン仲間の誘惑に負けて「追っかけ」の真似ごとをしはじめてからは、東京や各地方の多くのホールにもずいぶん遠征したが、そうすればするほどかえってフェスティバルホールは、帰るべき場所――最も無心な状態で、彼女の歌に浸りきれる場所――としての懐かしさを増していったような気がした。

 

そのフェスティバルホールが改築されることが明らかになったとき、別れの寂しさと、新しいホールへの期待と不安とがないまぜになった気持ちを味わったのは、おそらく私だけではないだろう。

そうした気持ちは、私のような1オーディエンスなどよりも、このホールのステージに登場してきたアーティストたちにとってはなおさらのことだったようで、中島みゆきを含む4人のアーティストが新生フェスティバルホールに寄せたメッセージ (『朝日新聞』2013年4月4日付記事) からも、それはよくうかがわれる。

 

――しかし、新しいホールのエントランスにはじめて足を踏み入れた瞬間、 (やはり上記記事のアーティストたちも語っているように) なんともいえない懐かしさが、私の身を包んだ。

かつてこのホールで何度も味わってきた、開演前から胸に高まる期待を優しく受け止めてくれるような独特の空気感が、よみがえってくる。

その空気感を味わいながら、開場前の短い時間、同じく幸運にもこの追加公演に来ることのできた少数の友人たちと、ホール2階のビヤホールでささやかな祝杯をあげた。

「縁会」の大団円

さて、前置きがずいぶん長くなってしまった。

座席につき、前後左右、そして上方を見回してみる。3階まで満席のホール内――その内装のデザインや色調は当然新しくなっているのだが、その空気感は、やはり上記の第一印象を裏切らない。

――やがて客電が落ち、「空と君のあいだに」のイントロが静かに流れ、石橋尚子のヴァイオリンが、この曲のサビの旋律をゆったりと奏ではじめる。それは、これまで3回経験したこのツアーのオープニングと音楽的にはまったく同じであるはずなのだが、しかし、やはり何かが違う。

2月の本来の千秋楽から3ヶ月を隔てて、1日だけの追加公演という異例のスケジュールということも相まってか、PAのバランスも、また中島みゆき自身の声の調子も、出だしは必ずしも万全ではないように聴こえた――しかし、そんなことはすぐに、まったく問題ではなくなった。

生命力溢れるリズムを叩き出す島村英二のドラムをはじめとして、ミュージシャンたちの伸びやかで力強く、かつ繊細な演奏もさることながら、やはり何といっても、ツアーの大団円に向けて、思いのたけのすべてをほとばしらせるかのような中島みゆきのヴォーカルが、胸を熱くする。

――たとえば、「化粧」のラストの激しい慟哭、「過ぎゆく夏」のサビの素晴らしい疾走感と昂揚感。

あるいはがらりと趣を変えて、第2幕前半の「夜」のムードの3曲――「真直な線」「常夜灯」「悲しいことはいつもある」――での、この上なく繊細でアンニュイな声の表情の魅力。そしていうまでもなく、本編ラスト4曲――「時代」「倒木の敗者復活戦」「世情」「月はそこにいる」での、遥かな時の流れに寄せる、祈りにも似た深く熱い想い。

それらは、過去3回の公演での表現と基本的に違いはないはずなのだが、ただそれらのすべての表現の幅、あるいはダイナミックレンジが極限にまで拡大され、客席に押し寄せてくるのだ。

 

異例の追加公演ならではのサプライズは、2回だけあった。

1回目は、第1幕ラストの「風の笛」の前のMC。中島みゆきは上記の記事が載った新聞をスタッフから受け取り、 (まるでオールナイトニッポンの葉書を読むかのようなコミカルで巧みな表情をつけながら) 自らのメッセージを朗読する――

ただいま。新しいフェスティバルホール。
恐~~いヌシたち、健在。
新しくなろうと何だろうと、フェスティバルは温かい。

――そして、「では、現物をご覧いただきましょう。ヌシのかた、どうぞこちらへ!」と、下手袖から、黒っぽい衣装を着た3人の男性スタッフをステージ中央に呼び出す。その代表者から彼女への「おかえりなさい」という返礼に、大きな拍手がわいた。

 

そして2回目は、大詰め近いアンコールの2曲目「パラダイス・カフェ」のエンディングのあとだった。間髪を入れず、ピアノによる聴きなれない3拍子のイントロが流れだし、周囲の客席から静かなどよめきが起こる――

――前日、5月22日にリリースされたばかりの、中島美嘉への提供曲「愛詞 (あいことば)」。もしやこの歌が曲目に加えられるのではないか、というかすかな予感がなかったわけではないが、実際にそのイントロを耳にした瞬間、やはり私の中に驚きが走った。

やや抑え気味の声で1番を歌い終わった中島みゆきは、舞台下手に向かって右腕を差し伸べる――間奏が流れる中、袖から登場する、黒いワンピースのドレスをまとった小柄で華奢な女性――中島美嘉本人だ。

客席のどよめきはさらに高まって拍手へと変わり、2番からは彼女がソロで、声を振り絞るように歌う――さらにラストのサビでは、中島みゆきが低音部のハーモニーをつける。

このゲスト出演のために仙台からかけつけてきたという中島美嘉のストレートで懸命な熱唱に、彼女の歌を初めてライヴで聴く私は率直に胸を打たれ、客席からはさらに大きな拍手がわいた。

――このサプライズをレポートした記事にもあるように、中島みゆきのコンサートに、他の歌手がゲストとして登場するのは、実に初めてのことだ。

それも、今回はじめて曲の提供を受けた、中島みゆきからみれば娘のような年齢の中島美嘉が――「北のナカジマと南のナカシマ」という準同姓(?)のよしみがあるとはいえ――その記念すべきゲストになったのは、さらなる驚きというほかはない。

 

――このサプライズの余韻、そして今夜の特別なコンサートの余韻、さらには、「縁会」ツアー全体の余韻が重層する中で、終曲のイントロが静かに流れだす。

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夜明けが近づいてくる空を背景に、中島みゆきはこれまでにも増して万感の思いをこめぬいて、「ヘッドライト・テールライト」を歌いきる。

「縁会」ツアーはこの大団円で幕を閉じても、「旅はまだ終わらない」。

この次には、どのような旅の風景の中で、私は中島みゆきと再会できるのだろうか――その時への期待と希望を胸に、私はまた日常の現実へと帰ってゆく。


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