夜会Vol.17「2/2」の事務局サイトがオープンし、東京公演の先行予約受付がスタートした(締め切りは7/30(土) ) 。
そして、公式サイト「でじなみ」の夜会ページでは、キャストも発表された。
CAST 中島みゆき 植野葉子 香坂千晶 コビヤマ洋一
この機会に、中島みゆきの共演者3人について、いくつか思い出すことを記しておこう。
植野葉子はVol.10「海嘯」 (1998) 以来の、久々の出演となる (とはいえ、出演回数としては4回目となり、後述のコビヤマ洋一と同じ) 。
彼女の夜会初出演はVol.7「2/2」 (1995) であり、その再演のVol.9「2/2」 (1997) でも彼女は起用されているので、この演目ゆえの再登板ということなのかもしれない。
しかし、熱心な中島みゆきファンであれば、それよりも以前、夜会Vol.5「花の色は…」 (1993) のメイキングビデオで、アンダースタディとして登場していた彼女の姿を観て、その名を記憶した人も少なくないのではないだろうか――少なくとも私はその一人だった (ちなみに、このメイキングビデオはVHSとLDのフォーマットでのみリリースされ、残念ながら現在は市販されていない) 。
演劇用語としての「アンダースタディ」とは、一般的には、出演者に急病等の支障が生じたときのための (本番での)「代役」を意味するようだ。
が、このメイキングビデオでの植野葉子の役割は、むしろリハーサルの際に、主役の中島みゆきが登場する場面で主役に代わって演技し、それを演出家としての中島みゆきが客観的な視点から確認するための、いわば主役の身代わりとでもいうべきものだった。
夜会では、中島みゆきが主演と演出家を兼ねる以上、この意味でのアンダースタディは、リハーサルには絶対に欠くことのできない存在だろう。裏方とはいえ、この仕事をこなすには、相当の演技力やコミュニケーション能力、シナリオへの理解力が要求されるのは想像に難くない。
リハーサルにおける中島みゆきの「分身」ともいうべきこの仕事をこなしたことが、後に「2/2」の舞台上で、中島みゆき演ずるヒロイン梨花の「分身」ともいうべき双子の姉妹の役柄への起用につながったのでは――というのは、しかし短絡的過ぎる見方だろう。
事実、夜会の歴代アンダースタディの中で、これまでのところ本番の舞台にも立ったのは、他にはVol.8「問う女」のアンダースタディを務めた香坂千晶がいるのみである。
――そうした想像はおくとして、私は植野葉子の演技を、これまでは2つの映像ソフト (Vol.7「2/2」とVol.10「海嘯」) でしか観ていない。今回のVol.17で初めて、彼女の演技を生の舞台で観ることができるのを、まずは楽しみにしたい。
コビヤマ洋一は、Vol.14「24時着00時発」 (2006年) 以来4回連続の出演となり、夜会では早くも準レギュラー・メンバーとなった印象が強い。
初登場の「24時着00時発」での――コートを羽織り帽子を目深にかぶった宮澤賢治のよく知られた写真をモチーフとした――〈KENJI〉役も印象的だったが、何といってもまだ記憶に強く焼き付いているのは、「今晩屋」の〈元・画家のホームレス〉〈左官〉〈厨子王〉役での、大柄な体を存分に生かしたダイナミックな演技である。
とりわけ、第1幕ラストの「都の灯り」――僧形となった〈ホームレス〉(厨子王?) が、炎上する縁切寺の扉の中へと姿を消していく場面――は衝撃的で、強烈なインパクトを残した。あそこは、コビヤマ洋一の大柄で個性的な風貌と長身があってこその場面であったと思う。
「2/2」では――プロットが大きく変更されるようなことがなければ――キャスト中唯一の男優として、彼がヒロイン梨花の恋人・圭の役を演ずることになるはずだ。
それぞれ1回きりのキャストであったVol.7 の伊藤敏八 (惜しくも故人となってしまったが) 、Vol.9の藤敏也とは異なり、すでに夜会でその強烈な個性が印象づけられているコビヤマ洋一が、どのような〈圭〉を演じることになるのか――それも楽しみのひとつである。
香坂千晶は、初出演のVol.6「シャングリラ」 (1994年) から数えて9回目、Vol.12「ウィンター・ガーデン」 (2002年) 以来6回連続の出演で、もはや夜会には欠かせぬレギュラー・メンバーとなった印象が強い。
しかし、最初の「シャングリラ」での彼女の役柄――女主人メイリンの看護婦など――には台詞がなく、共演者というよりは、いかにも「助演」という印象が強かった。
その後、Vol.10「海嘯」では、植野葉子とともに彼女にも多くの台詞のある役柄――ハワイの結核療養所の入院患者――が割り当てられることになるが、なんといっても彼女にとって最大のブレークスルーとなったのは、Vol.12「ウィンター・ガーデン」の〈女〉役だったのではないだろうか。
Vol.11では谷山浩子が演じた〈女〉役に、Vol.12で当初予定されていた吉田日出子が突発性難聴のために降板し、急遽代役として香坂千晶が起用された。
「ウィンター・ガーデン」の〈女〉役は、中島みゆきが演じる〈犬〉と並んで、事実上のダブル主役といってもいいほどの「重い」役柄だ。台詞――正確には、詩の朗読――も非常に多い。さらに、大団円の「記憶」では、中島みゆきとのデュエットの歌唱もある。
私はVol.12の開演2日目、2002年11月27日の公演を観た。香坂千晶はこの大役を精一杯こなしてはいたが、どこか硬さが残る印象が拭えないのも事実だった。が、もっと後の日程の公演を (複数回) 観た知人の話では、彼女の演技は回を追うごとに硬さがほぐれ、表情の豊かさと伸びやかさを増していったという。
おそらくは、この大役をこなした経験が、それにつづく「24時着0時発」での〈かげ〉、そして「今晩屋」での〈縁切寺の庵主〉〈水族館の飼育員〉〈姥竹〉〈安寿〉という複雑かつ重要な役柄での充実した演技と、事実上のレギュラー・メンバーとしての定着につながったのではないかと思う。
「2/2」という演目に関しては、彼女はVol.9 (1997年) 以来の出演となる。Vol.9 を私は観ていないし、映像ソフトもリリースされていないので、この時と比較してどうこうと、予想めいたことを述べることはできない。
ただ、〈かげ〉といい〈安寿〉といい、いわば主役たる中島みゆきの分身ともいうべき役柄を演じた経験が、なんらかのかたちで今回のVol.17「2/2」にも反映されるのではないか――そのあたりに注目しながら舞台に接することにしたい。
なお、香坂千晶は自らのブログで、今回の夜会への抱負を語っている。
ふだんは軽妙でコミカルな語り口で楽しく読ませてくれるブログだが――そのあたり、中島みゆきのキャラクターとも一脈通じるものがあって興味深い――、この記事ではいつになくシリアスかつ率直に、夜会は「私にとって宝物」、「その宝物にまた関われるという……喜び、そうして不安・緊張……」と語っているのがとても印象深い。
多くの読者の、「香坂さんの出演を楽しみにしていました」というコメントにも思わず共感してしまう。
初日までまだ5ヶ月以上あるとはいえ、私の胸の中にも、今回の夜会への期待がふくらんでくるのを感じつつ――。